「麻由(まゆ)!」


どうして……。


どうして、あなたが私を。私の名前を呼ぶの?


地元に帰ってきてから……ううん。お姉ちゃんが亡くなってから、決して呼ばなかったくせに。


きっと仁史はアパートから走ってきたんだろう。汗だくでいつもきちんとしてる髪も、スーツも、息すらも乱れてる。


ここは駅前通りで人通りが多い。彼から離れようと急いで足を速めたのに、仁史はあっという間に私に追いつくと、腕を掴んできつく握りしめた。


「麻由、どういうことだ? このファイルは」

「……彼女に、作ってもらえば良いから」

「何だよ、それ!?」


バン、と寒空に冴えた音が響く。仁史がファイルを地面に叩きつけた音だった。


余計なことだった……と、私の心まで砕け散りそうになった。仁史にとって、こんなささやかなことすら苛ただしいことだった……と堪えた涙が流れ落ちる。


けど、もっと予想外な出来事が起きた。


背中が壁際に着くまで追い詰められたまま、彼の右の拳が思いっきり壁に打ち付けられた。私を閉じ込めた仁史は苦し気な表情で、壁に着けた手が震えてる。


「俺の彼女って、麻由のことだろうが! 訳のわかんねえこと言うな!!」


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