業務報告はキスのあとで

 しかし、ここは小さな資料室。数歩下がったところで、私の背中は資料棚に当たってしまった。

 背中には資料棚。そして、目の前には真っ直ぐ私を見つめている平岡さん。


「前置きとか、長々と話すのとか、そういうの嫌いだから単刀直入に言うけどさ」


 状況が全く理解できていない混乱状態の私を構うことなく、勝手に話を進めている平岡さんは、一体、次に何を言い出すのだろうか。

 こんなところでいきなり迫られて、これから〝単刀直入〟に何かを言われるって、私、もしかして何かしてしまったのだろうか。


「あの、私、何かお気に召さないことでもしてしまいましたか……?」


 恐る恐る、平岡さんに問いかける。

 初日から上司に目をつけられてしまうなんて、本当に最悪だ。

 もしかして、私の挨拶の仕方ががダメだったのだろうか。それとも、チャラ男とか思ってたのがばれたのだろうか。

 なんて、そう賢くもない頭を使って試行錯誤させている私の頭上から「え?」という驚きの声が降ってくる。その一言に、つい私も「え?」と同じ様に返してしまった。


「まさか、本当に覚えてない?」


 次に発された平岡さんの一言に、私は目を丸く開き、首を傾げた。

< 8 / 350 >

この作品をシェア

pagetop