手の届く距離
「結局かなっぺも由香ぴょんも川原のこと好きだったんだよなぁ。なんか、意外というか、私にはそこまであいつにモテ要素を感じないんだけど」
「ちょっとぉ!」
素直な感想のつもりだったが、晴香さんからしてみれば、聞き捨てならないセリフだったらしい。
膝を突き合わせるような形で向かい合わせに座らせられる。
酔っ払って赤く染まった頬で全く迫力がないが、キリッと眉を吊り上げている。
「祥ちゃんってホント、男を見る目がないのねぇ。お姉さんどうしたらいいかしら。あんないい物件ないと思うのよ?純朴だけど頭もいいし、妹がいるせいかある程度女の子の扱いわかってるし、やさしいし、背も高いし、体力もあるし、固すぎるくらい真面目。あんなにポイント高いのに、なんでわかんないのぉ?祥ちゃんの立場がうらやましくて仕方がない女子がいっぱいいると思うわ。ホント、鈍感なんだから」
晴香さんが指折り川原の長所を上げる勢いに気おされながら、先輩として慕ってくれる川原の姿を思い出す。
確かに距離が近かったかもしれない。
川原が嫌がらなかったし、私も悪い気がしなかったので、そうなったのだ。
だからだったのだろうか。
由香ぴょんが別れ際に「川原のことを、好きにならないで」と言ってきたのは。
もう別れたのだから、川原の動向なんて気にすることはないはずだから、適当に頷いた気がする。
人の気持ちなんてどう転ぶかわからないのだから、約束なんてあってないようなもの。
・・・頭ではわかって簡単に言ってしまえるが、自分に置き換えると、割り切れないのが人の心。
「じゃあ、可愛い後輩たちのために頑張った祥ちゃん自身はどうなってるのぉ」
気持ちよく酔っ払って、節度を守る必要もなく、周りの目も耳も気にせず話せる完璧な環境が揃っている。
人のことにはさほど苦労せずに介入できるのに、自分のことになると、こんなに迷路に迷い込むのだろうか。
違和感を抱えたまま、彼女昇格を果たしたが、違和感の大きさはますます大きくなっていく。
まず、電話しても出てくれない。
折り返しの電話も、メールもない。
メールをしても、なかなか返事が返ってこない。
これは、呆れられたのか、飽きられたのか、嫌われたのか。
忙しくて元々こういうことがデフォルトならば諦めるが、必要な連絡もないし、付き合いたてならもうちょっとアプローチがあってもいいだろう。
積極的なのは下心だけかと思うと幻滅してしまう。
直接店で見かけたときにようやく連絡がないことを心配している旨を伝えると、柔らかい笑顔で謝られただけだった。
それからも連絡がない状態。
これでは、付き合っているのかもわからない。
「連絡のなさとか、初デートでのがっつき具合とかあって、熱が冷めてきちゃってるんですよね。さすがにこれだけ連絡がなければ自然消滅かなって」
膝を抱えて、ため息を吐く。
知りたいと思った素顔は、知れば知るほど減点ばかりで、理想を持ちすぎていたのだろうかと心配になる。
そして、刈谷先輩がいかに私を甘やかしてくれていたかということに、今更気づく。
お互い初めての彼氏彼女で、どうやって接したらいいか手探りのなか、希望は出来る限り叶えてくれていたのだ。
広瀬さんには恋する乙女回路が全然作動しなくなってしまって、どちらかというと追及したくなるマネージャーモードばかり。