倦怠期です!
「ごめん・・待ってたよね」
「いーや」
「俺たちも今終わったとこ。今日は締だったからな。おつかれっ」
「うん。あの・・・ごめん。私、今日は行けない」

と私が言うと、その場が一瞬シーンと静まった。

「ごめんね。もっと早く言おうと思ったんだけど、二人とも今日は一日外出してたし。私も締の仕事に追われて・・・」
「じゃあ仕方ないな。他の日にする・・・」
「他の日もダメ。行けない」
「なんで。カレシに止められたのか?」と言う水沢さんに、私は「違う!大体私に彼なんていないもん!」とムキになって否定した。

「じゃあなんで行けないんだよ」と畳みかけるように聞いてきた有澤さんは、腕を組んで斜め上から私をじっと睨み見ている。

う。不機嫌な声。
そうだよね。待たせた挙句にドタキャンして、「行けない」宣言までして。
ワガママすぎる私に怒るのは当たり前だ。
せっかく二人とは仲良くしてたのに。
特に有澤さんとは、同じ産業部で、仕事上の接点はないけど、何かと私に優しくしてくれてたのに・・・私が全部台無しにしてしまった。

私がお父さんにお金をあげちゃったから。

「・・・おかね、ないの」
「は?なんで。冬のボーナスもらったばっか・・・」
「ない、の。おとうさんにあげて・・・貯金もほとんど、なくなった。電車通勤に、なったから、定期代のお小遣いもない。ううぅ・・・」

・・・二人には軽蔑されたよね。引かれたよね。友情、失ったよね。

身内の恥を晒した私は、恥ずかしくて二人を見ることができない。
でも迷惑かけた二人には、本当のことを言っておくべきだ。
このことを知ったことで、二人はもう二度と私を誘うこともないだろうし、関わろうとも思わないはずだと思っていたのに。

有澤さんは「分かった」と言うと、泣いてる私の手を引いて歩き出した。
つられるように、水沢さんも歩き出す。

「有澤、どこ行くんだよ」
「俺んち」
「わたし、帰る・・・」

泣き声で私は言いながら、空いてる左手で濡れた頬を拭うと、有澤さんが繋いでいる右手をギュッと握ってきた。

「今夜は俺んちで忘年会だ。水沢」と言った有澤さんが立ち止まったので、必然的に私たちも立ち止まる。

「なに」
「これで食べ物と飲み物買ってきて」

有澤さんは繋いでいた私の手を離すと、コートの内ポケットからお財布を出して、5千円札を一枚、水沢さんに渡した。

「そこのコンビニでいいよな?」
「全然オッケー。俺とすずは先行ってる」
「ういっす」
「俺んち、飲食料全然ないから、できるだけたくさん買って来いよ」
「ラジャー!」

と水沢さんは元気よく返事をすると、コンビニがある方向へ駆けて行った。

「ね、有澤さん。私、帰る。お金も払えないし・・・」
「泣いてるおまえから金もらおうとは思わないよ」
「う・・うぅ・・・ごめん、ね・・・」
「いいから。それより落ち着くまで俺んちにいろ」
「ん・・・ありがとう」

結局今回も、ボスザルの見事な采配ぶりに、私も水沢さんもごく自然に従っていた。
サル系の顔したカッコいい有澤さんが頼もしいと思えたのは、何も今回が初めてじゃない。
でもこのとき私は、有澤さんを頼ってると、初めて自覚した。

そして有澤さんは、頼った私に救いの手を差し伸べてくれた。

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