有澤さんは、会社から徒歩3分くらいのところにある公団に住んでいる。
これは会社が寮として借りてる部屋で、2LDKに二人同居する形になっているそうだ。
でも「寮」に入居できるのは男性のみという暗黙の決まりがあるので、女の私は適用外。

「ね、有澤さん」
「なに」
「いいの?そのぅ・・・仙崎さん、いるんでしょ?」

確か有澤さんは、医療1課の仙崎さんと同居しているはずだ。
普段ならともかく、明らかに泣いた痕跡がある私を見た仙崎さんは、もしかしたら有澤さんが泣かせたとか、こいつら修羅場ってないか?とか、ヘンな勘違いをしてしまうかもしれない。
そのあたりの私の心情を察してくれたのか。
有澤さんは「大丈夫」と言うと、私にニコッと笑ってくれた。

う!有澤さんが笑ってくれただけで、なんか・・・不安が吹き飛んだ。
だけどなぜかドキッとした私は、驚きで目を一瞬だけ見開いた。

「仙崎さんならいない。いてもすぐ出る。だから大丈夫だ」とやけに自信満々に有澤さんが言うので、きっと今日はお出かけで、帰りが遅いということだろうと思った私は、「あぁ、そう」と答えた。




「・・・で、いつご両親は離婚したんだ?」
「8月」
「今年の?」と有澤さんに聞かれた私は、コクンと頷いた。

「お母さんは私がタハラに入社する前に、離婚したかったみたいなんだけど・・・お父さんがなかなか応じなくて。元々ね、二人はいつも喧嘩ばっかりしてたけど、最後の1年くらいはものすごかった。ある夜、お母さんが台所から包丁持ってきて。刃の先はお父さんに向けられてて・・・お姉ちゃんが止めてくれたからよかったけど・・・わた、わたし、ただ怖くて、見てることしか・・・できなかった」
「うっわぁ。そりゃ俺だってビビるわ」と言った水沢さんは、さっき自分が買ってきた缶ビールをグイッと煽った。

その声は驚きとあきれているのが、ない混ぜになってる感じだ。
そしてすでにビール2缶を飲み終えている水沢さんは、顔が少し赤い。
きっと「飲まなきゃ聞いてられない」みたいな気持ちもあるんだろうな。

「離婚ってーのは当人同士が一番傷つくもんだと言うが、子どもだってそれなりに傷つくよな」と有澤さんは言うと、右手に持っていたティッシュ1枚を私に手渡し、左手に持っていたティッシュの箱を、私の前に置いてくれた。

「ありがと。それね、コバちゃんも同じこと言ってた」
「コバちゃんって誰」と聞いた水沢さんに、「カンナギ冷熱の小早川さん」と私は答えた。

公共部の水沢さんは、普段カンナギ冷熱には行ってないから、コバちゃんのことを言っても知らないはずだけど、水沢さんは、「あー」と思い当たるような感じで言いながら、何度か頷いた。

やっぱり水沢さん、出来上がりつつあるみたい。

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