よくばりな恋
出会い side S
秋の三連休の最終日。

東京駅の新幹線ホームは連休を
楽しく過ごした人達でごった返し。

「グリーンなんて身分不相応だよ〜。
自由席で十分やったのに。」

「自由席なんていっぱいだよ。京都まで
座れなかったら悲惨だし、指定席は埋まってるし、僕らからの気持ちだと思って
グリーンでふんぞり返って帰ってよ。」

「ありがとう、貴仁くん。茜のこと
よろしくね。」

「任せといて。翠(すい)ちゃんも身体に気をつけて。たまには茜に顔見せてやって。」






・・・・・・ダメだ。




私の涙腺が決壊する前に新幹線に乗ってしまおう。



妹のダンナ様である貴仁くんは

ホントいい人。

茜はきっと幸せになれる。

「じゃあね 貴仁くん。またね。」

軽く手をあげて 潤み始めた瞳に気づかれないように新幹線に乗り込む。

座席を探して席に座ると窓の外で貴仁くんが笑顔で手を振っている。

まだ堪えなきゃ。

私も笑顔で手を振りかえす。

やがてすべるように新幹線が動きだし、
貴仁くんの姿がだんだん小さくなって行く。




「・・・・・・っく・・・」




もう堪えなくていい。




涙がはらはら落ちてきた。



幸せだけどさみしい、そんな複雑なわたしの心。

この世に二人きりの家族 妹の茜が貴仁くんと結婚して、京都から東京に行ってしまって半年。久々の再会だった。

「翠ちゃんに会いたい」と茜に懇願され、東京の新居を訪ねてみたら、赤ちゃんができたと言う。



良かったね 茜。


大事なものがまたひとつ増えたね。



散々嬉し涙をながしたのに。





「そんなに泣いてたら目ん玉溶けるんちゃう?」



ふいに隣から声をかけられる。


「よかったらどうぞ」


差し出されたのは箱ティッシュ。



隣の通路側の席に座りティッシュを差し出してくれたのは、紺色のスーツを着た男の人。

サラリーマンかな?
やわらかそうな短めのダークブラウンの髪は無造作にセットされている。グレイ
のネクタイを片手で緩めながらティッシュを差し出してくれた。



「どうせもらいものやし、遠慮せんでええよ。」

製薬会社のロゴが入ったそれは未開封。


「・・・・・・あ・・・ありがとうございます。」



ティッシュを手渡した彼は、それ以上の会話は不要と言わんばかりにカバンから本を出して読み始めた。



ありがたくいただいて涙をふく。




イケメンだなあ・・・・・・




グリーンに乗るくらいだからきっと
エリート?涙をふくのに箱ティッシュを差し出されるのは初めてだなとちょっと笑いがもれる。なんだか少し気持ちが明るくなった。






「なあ!自分、京都で降りるんちゃうの?」


いつの間にか寝てしまったらしい。隣のイケメンが座席の前のテーブルに置きっぱなしのわたしのチケットを指さして冷ややかかな目で見下ろしていた。


はっとして窓の外を見ると、もうすぐ京都駅とわかる見慣れた風景。


「あっ・・ありがとうございます。」


慌てて荷物をまとめる。


憮然としているけれど、なんだかんだで優しい人かもしれない。


「ほな。」


「あっ!あのっ!」


つい引き止めてしまった。


「なに?」


バッグの中から、いつも入っている小さな袋を出す。


「ティッシュありがとうございました。」


そう言って彼にその小さな袋を渡した。


「お仕事で疲れたときに効きますよ。」


「・・・・・・どうも。」




なんだかあっけにとられたような顔をして、それから出口の方へと歩いて行ってしまった。



小さな袋の中身は金平糖。
甘いものは幸せな気分になるしね。
ティッシュと起こしてくれたお礼です。



「わたしも帰ろ。」


わたしが新幹線を降りるころには、彼はホームに降りてエスカレーターにむかっていた。



背筋の伸びた後ろ姿までイケメンな彼に、もう一度心の中でお礼を言っておいた。
































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