ふわふわ。

「どうしてそうなるの。どこをどうなったら、そんな話になっちゃうの?」

「え。だって、山根さん。打ち上げの時に物怖じせずに倉坂さんと話してたじゃないですかー」

「それは……そうでしょ。話しかけたら怒られる訳でもないし。普通でしょう」

「それに、打ち上げ終わった後、キスしてたって噂ですけど?」

堺さんがちらりと手帳から視線を上げ、可愛らしく小首を傾げるけれど。

なんて言うか、色んな人の視線もチクチク感じるけれど。


って、



……キス?




「してないしてないしてない───!! 確かに帰りに話はしてたけど、それだけの話で、手も触れてすらいないって!」

「え~? 倉坂さんを落とした女性って、山根さん有名人ですよ~」

「ないないない。そんな話は……」

「まだ無いです。残念な事に」


背後から聞こえてきた低い声。


ざわついていた休憩室が、気がつけば静まり返っていた。


…………なんて言いますか。


なんでこの人は、背後から忍び寄るようになったんだろう。


「く、倉坂さ……」

「はい。なんでしょう?」

ガバリと立ち上がると、お箸片手に倉坂さんを見上げる。

「なんでしょう、じゃありませんから。まだ無いですって、誤解されるような言い方は止めて下さい」

「でも、僕が山根さんに言い寄っているのは事実でしょう?」


しれっと無表情に何を宣うんだ、この人は!


「ですから、そういう噂であれば、僕は大変喜ばしいですが?」

「私は喜ばしくないです!」

「きゃーっ! 倉坂さん、告白してるんですか? したんですよね。そうなんですね?」

ウキウキ聞いてるけど、堺さん、それは違うの!

「告白なんてされてません!」

「じゃ。何て言われたんですかー?」

「言えません!」

言えるものか、まさか……

「あわよくば、お持ち帰りしようと思ってた旨をお伝えしました」


なんでこんな時だけ、ノリノリに語ってるの!

< 25 / 57 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop