鈴姫戦記 ~ふたつの悲しい恋物語~

椿 絖覇





 あたしを抱き上げた絖覇は、迷わず保健室へと直行する。


「絖覇!?


 いいよ、あたし自分で行けるから!


 というか、絖覇早く教室行かないと遅刻になっちゃう!」



 絖覇の腕の中で、抗議すると、絖覇は突然、ピタリと止まってしまった。


 絖覇・・・・・・?


 疑問に思って彼の顔を見上げれば、絖覇は何か不満げだった。



「俺のことはいいんだよ」


 いつも調子に戻ったチャラ男は、ポソリと何かを呟いた。


 どういう意味・・・・・・?


 
「きゃ!」



 そして再び歩き出す。


 突然止まって、また突然歩き出したので、上半身を起こして彼の顔を覗き込んでいたあたしは、再び絖覇の胸に倒れ込んでしまった。


 そしてしばらくすれば、『保健室』と書かれた白いプレートが掛かった教室に着く。


 彼は器用に足を使って保健室のドアを開けると、さっさと中に入ってしまった。


 中にはあいにく誰もいなく、窓が開いていて静かに淡いピンク色のカーテンが風に揺られていた。



「ちっ、先生いないのか」



「いないなら、勝手に入らない方がいいよ・・・・・・」



「いや、でも体調が悪いやつがいるんだ。


 先生がいるとか、いないとか、関係ないだろ。


 ほら、休め」


 そのままズカズカとベッドまで歩いて来ると、絖覇はベッドの上にあたしを寝かせて布団を掛けた。


 ポン!と頭を叩かれる。


 今日はいろいろ助けてもらっているから、素直に言うことを聞くことにした。


 絖覇はどこからか椅子を引っ張って来ると、あたしの寝ているベッドの横に座った。


 授業行かなくていいの?


 そう言おうと思って、わずかに口を開くと、



「俺のことは気にするな。


 それより、気を張ってなくていいぞ。


 もう、眠れ」



 そう言われて、優しく頭を撫でられると、どっと睡魔があたしを襲って、あたしの意識は奥深く沈んでいった。



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