この恋、永遠に。

嫉妬と疑惑

 俺の優秀な秘書、沢口が運転する車の後部座席で、血が滲み始めた左手の甲を忌々しい思いで眺めた俺は腹立たしげに舌打ちをした。
 ここ最近、会社の住所で俺宛に送られてくるド派手なピンクの封筒。何の嫌がらせかと思いきや、まさかアイツだったとは。自宅に送らず敢えて会社にするところが腹立たしい。

 そもそも俺は認めていない訳でもないし、今となってはこの会社を継ぐことに不満はない。
 もともと俺にはこの会社を継ぐ気がなかった。果たしてビジネスの世界で本宮ではなく自分の力がどこまで通用するのかを試したいと思っていた。
 だが、あることがきっかけで俺は不本意ながらも、曾祖父の代から続くこの本宮商事を背負うことになってしまったのだ。

 最初はそのことを恨んだりもしたが、こうしてみると、この仕事は奥が深い。日本でも有数の総合商社だけあって、可能性は無限だ。勿論、いいことばかりではない。だが、やりがいを感じているのは事実だ。最近は海外の企業に投資し人材を送り込むのに忙しい。業績は順調だといえる。

「専務、今日の予定はこれで終了です。久しぶりに早くお帰り頂けますね」

「……そうだな」

「…もしかして、彼女にまだ連絡がつかないんですか?」

「…………」

 バックミラー越しに目が合った沢口を、俺は睨みつける。孝同様、この男にも俺の睨みは効果がない。全く不愉快だ。

「専務がそんな顔をなさるなんて、本当に意外でしたよ」

 ハンドルを握り視線を前方に向けたまま、沢口が目を細めて軽口を叩く。彼は俺の秘書だが、厳格な主従関係ではない。彼とは孝よりも古い付き合いだからだ。付き合いを遡ると、小学生の頃からになる。幼馴染、というやつだ。今では孝も交えて交流がある。

「もう仕事は終わりだ。敬語はやめろ」

 沢口は仕事とプライベートを嫌味なほどきっちり分ける男だ。例え俺と二人きりのときでも、仕事中は堅苦しい態度を崩さない。俺にはそれが少し息苦しく感じられることもある。

「そうですか?それでもまだ会社に着いていませんからね」

 不敵に微笑むこの男はやはり秘書としての態度を崩さない。俺はスマホを取り出し、美緒のアドレスを表示させた。
 ここ最近、彼女と連絡が取れない。いつもであれば、彼女が電話に出なかったときは、後から折り返してくれていたのに、それがない。もう何度も電話をかけていて、着信履歴はあるはずなのに、かかってこないということは避けられているのだろうか。それとも、電話をかけられない理由があるのだろうか。病気か何かではないかと心配になり、一度美緒の自宅アパートへ行ったことがある。だが、留守のようだった。孝に連絡して様子を探ってもらった方がいいかもしれない。何もなければそれでいいのだ。



< 61 / 132 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop