今度こそ、練愛
困難

高杉さんの指示で店の外の掃除を始めた。
だけど、どこまで掃除をしていいのかわからない。掃き掃除、窓の拭き掃除、どれぐらい綺麗にすればいいんだろう。



前の職場で始業前に自分のデスク周りを掃除していた時は、自分の満足できる程度でよかったのに。



迷いながらも自分なりに掃除をしていると、高杉さんが店から出てきた。ちょっと怖い顔をしているのが気になる。



「大隈さん、ちょっと貸して」



すたすたと速足でやって来た高杉さんは、私から箒を奪い取った。



私が答える間もなく、店の端から箒で掃いていく。高杉さんの手際の良さとみるみる綺麗になっていく様子を、私は呆然と眺めるだけ。



あっという間に吐き掃除を済ませたら、箒を雑巾に持ち替えて窓を拭き始める。隅から隅まで体を動かしす高杉さんの素早い動作に見惚れてしまう。



一枚、二枚と窓を拭き終えたところで、高杉さんが振り向いた。



「自己満足じゃダメ、お客さんが見ているんだから。人によって見る場所も角度も違う、どこを見られてもいいように徹底的にして」



きつい口調とともに睨まれて、雑巾を渡される。
私が花を買った時に高杉さんが接客で見せてくれた優しい笑顔とはまったく違う顔。高杉さんの仕事の向けの顔だろう。



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