その日の帰り、今日は早く帰ろう、とほとんど規定時間通りに会社を出ると、会社の玄関から少し離れたところで、ガードレールにもたれるようにして立っている祥裄の姿が目に入った。

きっと絵里ちゃんのご機嫌を取るために待っているんだろう。
絵里ちゃんは私が出る時は珍しくまだ仕事をしていて、しかも急ぎの案件が溜まっているらしく、もう少し時間がかかりそうな雰囲気だった。

昨日されたことを思い出すと顔なんか合わせたくないけど、家に帰るにはこの道が一番近い。

なんで私が遠回りをしなければならないのか、と開き直って、そのまま祥裄に向かって歩いた。
あっちだってわざわざ私に話しかけてきたりしないだろう。


私が近付いていくと祥裄が顔を上げた。
顔を背けて歩き去ろうとすると、あろうことか祥裄が私の腕を掴んだ。


「沙羽」


なんで話しかけてくるんだ、とイラッとして、顔を見上げて睨みつける。


「何?」


すると祥裄は珍しく、少し顔を曇らせた。


「怒ってんの?」
「怒ってないわけないよね?」


「……悪かったよ」


素直に謝られると思ってなかった私が、ちょっと呆気にとられた顔をすると、祥裄はさらに済まなそうに顔を歪ませた。


「昨日の事以外も、いろいろ、悪かったと思ってる。……本当はちゃんと話したい、ってずっと思ってたんだ。今から時間取れないか?」


そう言う祥裄の顔は、なんだか本当に辛そうだった。
いつも自信を浮かべているのに、今はどこか頼りなげで、余裕がない様子に見える。

「……絵里ちゃんに睨まれるの、イヤなんだけど」

「あいつにはちゃんと言っとくよ。ただ話をしただけだって」

真剣な声でそう言われて、乞うような視線を向けられると、断りづらい。


――確かに、私たちはもっときちんと話をするべきかもしれない。三ヶ月近くも経って、今更だけど。

「あんた、おごりなさいよ」

私が素っ気なく言うと、祥裄はどこか安心したように、息をついた。

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