「比奈守君、ごめんね。私がネックレスをなくしたりしなきゃ、あんなことにはならなかったのに……」
「先生は悪くないよ。俺がプールに行かなければ良かったんです……」

 切ない会話だと思った。

 好きになっただけなのに、なぜ謝り合わなきゃいけないんだろうーー。


 どちらかともなく歩き始めたけど、会話は全然弾まない。

 永田先生に注意された時の雰囲気がまだ全身にまとわりついているようだ。明るい話題を口にして空気を変えようかと思ったけど、それも何だか空々しい気がして、結局何も言えなかった。

 気まずい沈黙が続く。

 隣に並ぶ比奈守君の横顔を視線の動きだけで見やると、深く何かを考え込んでいるようだった。

 ーーーーこわい。

 永田先生にあんなことを言われたし、もしかしたら、私との別れを考えているのかもしれない。そう思え、鼓動が早くなる。

 比奈守君はまだ高校生だし、他の若い子みたいに恋愛に楽しさを求めてもおかしくない年頃だ。こんな面倒で制限だらけの恋、すぐに捨てたくなっても不思議ではない。


 心のどこかでいつも覚悟はしていたけど、本当に彼との別れが訪れた時、私はそれをすんなり受け入れられるのだろうか?

 こんなに好きなのに……。


 強い風が吹き、自分の髪からプールの水の匂いがした。それと同時に、さっき比奈守君と交わしたキスのことを思い出してしまう。

 完全に、心と体がバラバラだ。冷静に先のことを想像する反面、比奈守君との触れ合いを思い出すだけで体がほてる。そこへ昼間の日焼けが重なって、肌が焼けるようにヒリヒリしていた。


 付き合って以来、こんなに会話がないのは初めてだった。

 不安な気分もそのままに、私達は駅に着いた。

 気まずいまま明日を迎えるのは嫌だし、別れ際の挨拶くらい、陽気にしよう。

「嫌な思いさせて、塾も休ませて、今日は本当にごめんね。送ってくれてありがとう。あんなことがあったけど、比奈守君がプールに来てくれてとっても嬉しかったよ」
「飛星……!」
「ここでいいよ。またね」

 笑顔で手を振りホームに向かおうとした時、比奈守君は強く私の腕をつかんだ。

「今から、アパート行きたい」

 つかむ手の熱さと、見つめてくる真剣な瞳に、胸が高鳴る。

 アパートに来てくれるのはとても嬉しい。だけど、もしまた誰かに見られたら比奈守君に嫌な思いをさせてしまう。

「今日は、ここでバイバイしよ?塾も休んでるし、親御さんもきっと心配してるよ」
「それでも今は、飛星といたい……」

 言うなり、比奈守君は私の頭を両手で包み、広い胸にそっと抱き寄せた。

「私も、夕(せき)ともっと一緒にいたいよ」

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