マネー・ドール

 いつもはチャリ通勤だけど、今夜はタクシーに乗って、家へ帰った。鍵を開ける時に、ちょっと散らかってることを思い出したけど、そんなことを理由に入れないわけにはいかない。
「わあ、広いんだね!」
門田真純は十六畳のリビングと、最新のシステムキッチンを嬉しそうに見ている。
「もう一部屋あるよ」
「そうなんだぁ。すごいなぁ、こんな広いとこに一人で住んでるなんて……」
門田真純はソファに座って部屋の中を見渡した。クーラーをかけて、ビールを持って、俺も隣に座る。
「まだ、あの部屋に住んでるの?」
「うん」
「杉本、元気?」
門田真純は、その質問には答えなかった。俺も、それ以上は聞かなかった。その代わり、俯いたまま、呟いた。
「耳、痛かったの」
イヤリングを外して、耳たぶを押さえる。
「大丈夫?」
「どうか、なってる?」
「どれ?」
門田真純は、明らかに俺を誘っている。俺は、その誘いに乗った。長い髪をかきあげて、左の耳たぶを見ると、確かに赤くなっていた。
「赤くなってる」
「イヤリング、苦手なの」
耳たぶをそっと触ると、ちょっと熱い。
「反対も、見て」
「こっちも、赤くなってる」
「痛いの」
「治してあげる」
俺は、ふうっと息をかけて、耳たぶを唇で挟んだ。
「うん……」
そのまま首筋に唇を這わせて、俺の唇は、門田真純の唇に到達して、俺達はゆっくりキスをした。ゆっくり、唇と唇が、溶けちまうんじゃないかってくらい、俺達は、甘くて、熱い、キスをした。クーラーのウィーンっていう音に混じって、門田真純の吐息が聞こえて、俺はもう、どうしようもないくらい、門田真純に欲情していた。

「もう一部屋、見る?」
もう一部屋は、もちろん、寝室。セミダブルのベッドと、クロゼット。ベッドは今朝起きたままで、朝脱いだTシャツと短パンがそのままになっていた。
「おっきなベッドだね!」
門田真純は子供みたいに飛び込んで、その拍子に、ピンクのパンツがチラッと見えて、俺はそのまま、スカートをたくし上げて、そのピンクのケツに顔を埋めた。
「もう、やだぁ!」
「かわいい、オシリ」
うつ伏せに押し倒して、ふわふわのおっぱいが掌に溢れる。
「おっぱい、おっきいね」
「そう?」
開いた胸元から、ブラの中に手を入れて、人差し指と中指で、突起を挟んでクリクリすると、門田真純が俺の下で、ぴくっと動いた。
髪をかき分けて、赤い耳たぶとうなじを舐めて、俺はもうギンギンで、ジーンズ越しに門田真純の内腿に擦り付けた。
「わかる?」
「うん」
「いい?」
「アレ、ある?」
「あるよ」
俺は枕元の引き出しからコンドームを出して、門田真純に見せた。
「いいよ」
門田真純はにっこり笑って、両手を上げた。
「脱がして」
ああ、そういえば、セックス部屋でもこうしてよな……
 背中のファスナーを開けて、ワンピースを脱がしてやった。レースのピンクのブラジャーとパンツはお揃いで、相変わらず、ブラジャーに詰め込め過ぎだと思った。
「俺も」
俺も両手を上げた。門田真純は笑ってTシャツを脱がしてくれて、ベルトも外してくれたから、ジーンズも脱いだ。
俺達はしばらくそのままで、キスをしたり、カラダのあちこちを触ったり舐めたり噛んだりしあった。門田真純は、演技じゃなくって、ほんとに敏感のようで、うっとりとした顔で、カラダを時々ピクピクさせながら、俺の愛撫を受けて、膝を開くと、割れ目の部分のピンクの布地に少しシミができていた。
「シミ、できてるよ」
「……言わないで……」
シミはどんどん広がっていく。布を横からずらして、指を入れると、ちょっと酸っぱい匂いがして、その香気にクラクラして、気がつくと、俺のパンツにもシミができていた。
そのまま、門田真純の中に人差し指を入れて、またシミを広げて、ついにそのピンクの布を全部取り払った。
あの夜、三ミリの隙間からは見えなかったそこが、目の前にある。杉本にしか、見えなかった門田真純が……
杉本、俺はお前の女を手に入れたぜ。なあ、杉本。見ろよ、お前の女、俺の下で、こんなに感じてるぜ?
俺は門田真純の膝を大きく開いて、あの夜の杉本のように、そこに顔を埋めた。
門田真純はちょっと掠れた声で、カラダをビクビクさせて、俺の髪を掴む。
舐めても舐めても中から液が流れてくる。そして、門田真純の声がどんどん大きくなる。
顔……顔が見たい……
舌と指を、交代させて、門田真純を抱き寄せた。門田真純は潤んだ目で俺を見つめて、恥ずかしそうに目を閉じた。
かわいい……今まで抱いたオンナの中で、一番かわいい!
こんな……こんな顔を、杉本は抱いていたのか……独り占めしてたのか……
「マスミ……」
俺は、杉本みたいに、名前を呼んだ。
「ナニ?」
門田真純は、人差し指を噛みながら、甘えた声で言った。
「俺のモノになれよ」
そんな言い方、なんでしたんだろう。
門田真純は、伏目になって、俺の耳元で囁く。長い睫毛が、俺のほっぺたに微かに触れた。
「私ね……住むところが……ないの……」
門田真純は、俺の恥ずかしいシミができた部分を、親指と人差し指で握った。
「うん……」
門田真純の指が動く。
「どうしたら……いい?」
門田真純は消えそうな声で、掌で俺を扱く。
どうしたら……どうしたら?
 
 俺は、気づいてしまった。頭のいい俺は、気づいてしまった。
門田真純は、ここに住みたいんだ。俺と住みたいんじゃなくて、クーラーのある、広いベッドも、システムキッチンもある、この部屋に住みたいんだ……
モノにされるのは門田真純じゃなくて、俺。いや、俺の、金。門田真純は、そのカラダで、きっと、杉本も、モノにしたんだ。俺という、生活の糧を見つけたから、門田真純は、ここに引っ越そうとしている。
「お部屋、借りるお金ないし……」
門田真純の手が止まる。
ここで、終わりってことか……
「やっぱり、帰ろうかな……」
腕の中には、ブラだけの、最高にいいオンナが、熱いカラダで、俺の指を濡らしながら、元の部屋に、あいつの所に、帰ろうとしている。
帰せるかよ……もう、ここで終われるかよ……
俺は、負けた。門田真純に、いや、目の前の欲望に、負けてしまった。
「ここに、住めばいいじゃん」
ああ、言ってしまった……
「ほんとに? いいの?」
「真純、つきあおうぜ」
門田真純はにっこり笑って、俺の唇に吸い付いて、嬉しい、と言った。
そして、カラダを起こして、俺のボクサーブリーフをずらして、上を向いた先っぽに唇を当てた。
「あっ……」
俺は思わず声を出してしまって、門田真純は、舌で裏側をチロチロと舐めて、たぶん、先から出てる液を吸い取って、口の中に入れた。
確実に、杉本より、サイズダウンしている。満足させられないかもしれない。どうしよう。
門田真純の口の中で、ぼんやり考えているうちに、門田真純は、長い茶色に光る爪でコンドームを開けて、準備していた。
もうちょっと、口の中にいたい……でも、門田真純の中にも入りたい……
マゴマゴしてる間に、門田真純は、俺の上に跨って、俺を中に入れた。
うわ……すげぇ……キツ……ヤバ……
「ちょっと、待って……」
「うん?」
門田真純は呟いたけど、俺の上で動き始めた。
ああ、うん、と声をあげながら、おっぱいがブルブルと揺れる。
「おっぱい、苦しい?」
「うん……とっていい?」
「いいよ」
ホックが外れ、、乳肉が溢れだす。ピンクの突起は、赤くカチカチになっていて、俺は両手で両突起を摘まんで反撃したけど、全然効かなくて、このままだと、何もせずに終わってしまう……
そんな、カッコ悪いことできるかよ……杉本みたいに、暴れさせないと……杉本みたいに……
「真純……バックしていい?」
「うん……」
門田真純は俺から降りて、四つ這いになった。もう、猛烈に後悔。ケツを突き出した姿は、もうそれだけで、エロすぎた。
「恥ずかしいよぉ……」
俺は恐る恐る、結合させた。
ううっ……もう、ダメかもしんない……
門田真純はカラダを反らせ、俺を締め付ける。
「真純……めっちゃエロい……」
もう長くはもたないし、俺は思いっきり門田真純を攻めた。攻めて攻めて、攻めまくった。あの夜、杉本が門田真純を押さえつけていたように、俺も門田真純を必死で押さえつけた。妄想じゃない、本物の門田真純を、俺は必死で抱いた。必死で、ずっと抱きたかった体を、俺は抱いた。
門田真純は悲鳴みたいな声をあげて、俺も声を漏らして、俺達は、たった一箇所しか繋がっていないのに、全身を震わせた。

「めっちゃ、気持ちよかった」
「うん」
「真純は?」
「うん」
ほんとかよ……ほんとに満足したのかな……杉本と、どっちが……よかった?
バカバカしい嫉妬を感じながら、門田真純を抱きしめて、キスをして、タオルケットをかけた。門田真純の体は、俺の妄想以上で、もう他の女を抱いても感じないんじゃないかって思う位、最高だった。
「かわいい、真純」
門田真純は、うふっと笑った。
「ねえ、佐倉くんの、好みの見た目になった?」
「うん。めっちゃ、好み」
「がんばったんだよ。イケてる女の子になるために」
「俺の、ために?」
「カノジョになりたかったの」
それは……俺のことが、好きだから? それとも……
それ以上は聞けなかった。答えは、聞かなくてもわかっていたから。
そして、門田真純も、俺の気持ちを聞かなかった。
杉本に聞いたみたいに、私のこと好き? って、俺には聞かなかった。
「もう、カノジョだよ」
門田真純は、嬉しそうに笑って、俺の胸に顔を埋めた。長い髪からは、甘い匂いがして、目の下に、少しマスカラが滲んでいた。
「眠くなっちゃった……」
「うん、寝よっか」
「おやすみ……なさい……」
門田真純は、全裸のまま、俺の腕の中で目を閉じた。
寝顔はかわいくて、俺はしばらくその顔を見て、ほっぺたにキスして、腕枕の腕がしびれてきたので、そっと抜いた。
杉本は、朝まで腕枕、できるんだろうか……
ぼんやり考えてるうちに、俺もいつの間にか、眠っていた。俺達は全裸で、体を絡めたまま、朝を迎えた。


 こんな、こんな始まり。
俺達は、俺達の目の前の欲望を満たすために、お互いの体をつなげて、心は置き去りで、こうやって、始まった。そして、大切なものを失って行く。
でも、俺達はまだ若くて、ガキで、そんなこと、全くわからなかった。

 時間も、金も、若さも、何もかも無限で、俺達は、ずっとこのまま、このまま永遠にいられると、思っていた。
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