さよならさえ、嘘だというのなら

「お兄ちゃん。意識飛んでる」

妹に笑われ
ふと我に返り
知らん顔で食事を続けていると

「ごちそうさま」
祖父が箸を置く。

「おじいちゃん。あんまり食べてないじゃん」
妹が指摘すると

祖父は困り顔で笑いながら「食欲がなくて」と言い席を立ち

「明日、智和の所へ行って点滴でもしてくるさ。夏バテだろう」と、お母さんに言う。

町で唯一の診療所。
お母さんの年の離れた弟である、智和(ともかず)おじさんが医師として働いている。
おじいちゃんには点滴も効くけど
可愛い末っ子の智和おじさんの顔を見たら、元気も倍増するだろう。

「そうね。智和に連絡しておく。寝る前にプルミル飲んでね」

「わかったわかった」
口だけのこの返事は、孫の俺と口調が一緒らしい。

俺とおじいちゃんは互いに目を合わせ笑う。


今年は暑い
年寄りにはキツいかも

天候が変わったのか
学校帰りは涼しげで心地よい風を受けてたのだけど
今は窓から風も入らず
雨が降るのか
蒸している。

「おじいちゃん。部屋のエアコン点けてちょうだいね」
節電も大事だけど
身体が一番大事。
母さんはやっぱり立ち上がり、祖父の後を追う。

居間は節電中だけどね

「転校生。ドロン山に近づけるなよ」
焼き茄子を食べながら
ぼそぼそと父親が俺に言う。

「最初に先生から言われてるし、有名だからわかってるだろ」
トゲのある返事をし
俺は顔を横に向ける。

ドロン山


うちの町を
全国的に広げたのは

どこの誰なんだろう。




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