僕が彼女にチョコを貰えなかった理由
おまけ3〜波留の場合〜
「どーぞ。」


そう言って、俺がオレンジの箱を差し出すと、渚さんはそれを恐る恐る受け取った。



そして、包みを開けて中のチョコを食べようとする。



俺は、その手を掴んで、それを阻止した。



驚いてこちらを見る渚さん。


俺はにっこり笑って言った。



「ねぇ、渚さん。

 
 もし、それが渚さんの作ったやつなら、俺に食べさせてよ。


 違うなら、そのまま渚さんが食べて。」



それを聞いた渚さんが目を見開く。


その目はいつもより潤んでいる様に思う。


「は・・・る?」


「なーに?」



「もしかして、全部知ってて・・・?」



俺は、それを無視して渚さんの手からチョコを食べた。



「波留?全部知ってたの?」



渚さんの目から涙がこぼれ落ちた。



それを見て俺は流石に驚いた。



まさか、泣いてくれるとは思っていなかった。



嬉しくなった俺は、渚さんを引き寄せ、耳元でささやく。



「泣くくらいなら、初めから素直に渡してくれればいいのに。」



舌で掬い取った涙は、チョコよりも甘い。



ねぇ、渚さん、あなたは少しもわかってない。



その涙が、どんなに俺を煽るのか。



気の強いあなたが俺だけの前で見せる、その表情がどれだけ俺を喜ばせるのか。




いっそ、このまま閉じ込めてしまいたい。



叶えることが許されぬその衝動を、どれだけ俺が必死に抑えているか。


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