妖刀奇譚





「ううん、誰も分からなかったんだからすごいよ。


よく見てるんだね、人の持ち物とか」


「そんなことないよ、たまたま分かっただけだよ」


「今度から思葉ちゃんに聞くようにしようっと」



思葉は苦笑いを浮かべ、篠原の机の中央ににシャープペンシルを落ちないように置いた。


観える場合と観えない場合があるが、こういうときにこの能力は便利だ。


清掃時間が終わり、ホームルームも終わって、それぞれがそれぞれの放課後を過ごしに向かう。



「皆藤さん」



今日は特に予定もないので、駅前の本屋に行こうかと考えていると、後ろから声をかけられた。


振り向くとそこには、ややむすっとした表情の久保田が立っていた。


珍しいことになぜか思葉はぎくりとする。



「なに?」


「……前の、あの話のことだけどさ」



久保田はしばらく口ごもってから、歯切れ悪く話し始めた。


黒目がちろ、と思葉の後方に動いたのが見えて、花瓶の件について言っているのだと分かった。



「あ、うん、それがどうかしたの?」


「いや……あのとき、皆藤さんに見つかって良かったと思って」


「え?」




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