木箱の中にはほかに、古いタイプの散髪用の鋏が一挺と毛抜き(どちらも錆びている)、それとトンボ玉の玉簪に紅珊瑚のぴらぴらがしまってあった。


簪は2本とも和紙で包んである。


底にも丈夫な和紙が敷いてあるがかなり黄ばんでいた。


ぴらぴらを箱に戻し、思葉は腕を組んだ。


やはり真っ先に目にとびこんできたこの櫛がとても気になった。


でも、なぜか手に取ってよく確認してみようとはとても思えなかった。



(棟口さん、これを『売りたい』じゃなくて『預かって欲しい』って言ってたよね。


ということはどうしても早く手放したい理由があったってこと……?)



ふいに首の後ろがぞくりとした。


後ろから誰かに見られているような錯覚が起きる。


思葉は首を振って木箱に蓋をした。


畳んだ風呂敷と一緒に番台の下に置いておく。


とりあえず明日、棟口に連絡してみよう。


電話を切られたら直接向かえばいい。


うっかり住所まで聞いてしまったことが、思いも寄らない形で役に立ちそうだ。


台所へ向かおうとして思葉はふと気づいた。


櫛は「苦死」につながり、道に落ちている櫛を拾うのは「苦と死を拾う」という意味になり縁起が悪いと忌み嫌われている。


だからどうしても拾わなければならない場合は足で踏んでから拾うべき……ということを随分昔に富美子に教えられた。


少しだけ、いや、かなり不安が押し寄せてくる。



「……大丈夫だよ、拾ったのは風呂敷に包まれた箱であって櫛は中身ってだけだし」



思葉はそう声に出して引き戸を閉めた。


でないと怖くなりそうだった。


永近のいない日はまだ始まったばかりなのだ。









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