怖かった、すごく怖かった。


女が店からいなくなり、もう襲ってくるものがいないと安堵して、そのことを強く自覚する。


怖かった。


涙を流すほど怖いと思ったのはいつ以来だろうか。


床や棚に何度もぶつけたところがまだ鈍痛を孕んで疼いている。


女に首を掴まれたとき、思葉は殺されるのではと思った。


鋏にめった刺しにされるのを覚悟した。


けれど、殺されていない、刺されてもいない。


痛いけれど血は流れていない。


生きている。


玖皎が助けてくれた。


無我夢中で名前を呼んで、すぐに駆けつけてくれた。


だからこうして痛みを感じて、涙を流せている。


生きているのだ、助かったのだ。


もう大丈夫なんだ。



「ありがとう、玖皎……」


「……落ち着くまで、存分に泣けばいい。


人間はそうやって己の釣り合いを保つものだ、我慢することはない」


「うん……」



少しぶっきらぼうであるが、優しさを含んだ口吻だった。


それを聞いてまた涙腺がゆるまる。


思葉の気が済むまで、玖皎は静かに立って背中を貸していた。


けれども、彼女の肩を叩いたり背筋をさすったりして励ますことはしなかった。









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