妖刀奇譚





「いいよって言ったの」


「えっと……それはノーサンキューの『いいよ』じゃなくて、イエスの方の『いいよ』って意味っすか?」



思葉はため息をついて手を腰に当てた。



「なによその反応。人がせっかく行ってあげるって答えたのに」


「あ、いや……だって、思葉いつも最初は断るからさ、ちょっとびっくりして」


「断っても承諾しても驚かれたら、何て返せばいいのよ。


そんな反応するなら行ってあげないわよ」


「わー、すみません、嘘です嘘うそ!


ありがと思葉、まじ感謝!感謝感激雨あられ!」


「声が大きい!」



來世の頭を容赦なく叩き、思葉は教室へと歩き出す。


後を追いかけながら、來世は幼馴染の背中を軽く叩いた。



「どうしたんだよ」


「なにが」


「いつも断るのに断らなかった理由。


なんだよ、心境の変化か?」


「……まあ、そんなところかな」



自分にできることを精いっぱいやる。


自分が正しいと思ったことを精いっぱいやる。


きっとそれが答えになるから。



部屋に置いてきた、一振りの太刀が眼裏に浮かび上がる。


それを持ち、闇に向かって抜刀する青年の姿が観える。



(――檆葉丸)



胸の内で、思葉は彼の名前を呼んだ。






      [完]






< 358 / 376 >

この作品をシェア

pagetop