「古都!」


あの夜ピンチを救ってくれたときのように、私の名前を呼ぶ彼の声が聞こえる。

私はとっさに下ろしていた携帯を耳に当てたけど、聞こえてくるのはここからじゃない。


キョロキョロと辺りを見渡すと、私たちがいるのとは反対側の歩道を、オフィス街のある方向からスーツ姿で駆けてくる男の人が目に入った。


「あっ」


樋泉さんだ!

私が目を丸くして声を上げたので、乃木さんも言いかけていた言葉を飲み込んで私の視線の先を辿る。

肩で息をする樋泉さんは左手にいつものビジネスバッグを持ち、右手には携帯を握りしめ、こちら側へ渡ってこようとする。

けれど、ちょうど車道を走る車の連なりに切れ目がなく、なかなか横断することができない。

樋泉さんはブロウフレームのメガネの奥にあるまっすぐで精悍な眉をキッと吊り上げて、苛立たしげに黒い髪をくしゃくしゃと乱した。


「ひっ!」


なんだか鬼気迫る様子の彼に驚いたのか、乃木さんが小さく息を飲み後ずさる。

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