翌朝、渡部くんより早起きした私は、朝ごはんを作ってから彼を起こし、一緒にお味噌汁を飲んでから先に行くと言う彼を新妻のように送り出した。もちろん、行ってらっしゃいのキスも忘れずに。

慌ただしい時間の中でもそんなちょっとした幸せに浸れたことが嬉しくて、いつもより早めに着いた会社の前で、私はこちらに背を向けプランターの花に水をやる小さな背中に声を掛けた。


「おはようございまーす」

「おお、おはよう北見さん。朝から元気がいいね。さすが若いモンは違うなぁ」


灰色の作業着姿で振り向いたのは、優しげな目をした白髪のおじいさん。

彼は自転車でウチの新聞を各家庭に配りまわる、ポスティングスタッフのうちの一人、近藤菊治(こんどうきくじ)さん、六十四歳。


「私、ちょっといいことがあって。だから元気に見えるのかも」

「なんだなんだ、とうとう結婚か!」

「やだー、菊治さん、それはまだですよ」


照れ笑いを浮かべる私に、そうかそうかと目尻の皺を深めて微笑む菊治さん。

配達がないときにも、お花の世話をしてくれたり、社内の掃除をしてくれたり、こうして私たち社員のことを気にかけてくれる、みんなのおじいちゃん的存在だ。


「――お、菊じぃ、いつも悪いな」


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