幸せそうな顔をみせて【完】
 私がそういうと副島新はフッと息を吐いた。


「俺も緊張している」

「そうは見えない」

「見せないようにしているから。それよりそろそろ着く」


 その緊張という言葉はあまりにもそぐわないので聞き違いをしたのではないかと思った。いつも自信に溢れている副島新は緊張をしているらしいけど、いつもと変わらないように見える。表情からは何も読み取れなかった。でも、私はどこに連れて行かれるのだろう?


 正直、お腹はかなり空いている。ファーストフードでもラーメンでも何でもいいから早くお腹に入れたい。


「どこに行くの?」


「もうすぐ着く」


 窓からの流れる景色はいつの間にか雑踏溢れる街を抜け、海沿いの方まで走って来ていた。私のマンションから思ったよりも遠く離れた場所に来ていることに気付く。


 そして、車は海沿いの道を抜けると、建物の中に入っていく。私が吃驚して副島新の方を見ると、副島新は…少しだけ口の端を上げる。ここが到着地なのだろうか?でも、まさか…気楽なランチのつもりがまさかこんなところに来るとは思わなかった。


 私が連れてこられたのはこの地域で一番高級と言われるホテルで目の前を通ったことはあるけど、足を踏み入れたことはない。そのうち一緒に行きたいねと、未知や香也子と言ったこともある。そんな敷居が高い場所にまさか副島新と一緒に来るとは思わなかった。


 車は躊躇なくホテルの地下駐車場に入っていく。


「予約って?まさかこのホテル?」

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