残業しないで帰りたい!

(5)君を新田に会わせたら終わると思った


彼女と付き合い始めて1ヶ月。
俺は彼女を香奈ちゃんと呼び、彼女は俺を翔太くんと呼ぶようになった。

何て言うか……、今、俺はすごく幸せだ。

あの日、非常階段で香奈ちゃんに交際を断られた時は「そうだよね」なんて平気なフリをして見せたけど、本当は目の前が真っ暗になって、俺の人生は一度終わった。

でもまさか、俺が久保田さんとよりを戻した、なんて彼女が勘違いをしていたとはね。

君はヤキモチを妬いたの?

ああもうっ!
嬉しすぎる!
可愛い可愛い可愛いっ!

気持ちが加速してもう止められなかった。
今まであれほど心が踊って調子に乗ったことはない。

調子に乗ってしたこともない壁ドンなんてしてしまったし。
壁ドンだけでは耐えられず、どんどん近づいて最終的には抱き締めてしまったし。

抱き締めた彼女はぎこちなくて、でも柔らかくて温かくて、もう絶対に離したくないと思った。

何より、彼女が俺を知りたいと言ってくれたことが衝撃的だった。
王子様に望むことは思いつかないけど、それより俺のことを知りたい、だなんて。

驚いたんだ。
そんなことを言われるとは思わなかった。
そう言われて初めて地に足がついた重みを感じ、この世に生きている喜びを感じた。

後になって香奈ちゃんは「私が恋愛初心者だから思いつかないだけだよ……」なんて言ったけど、そうじゃない。

後にも先にも、俺を知りたいなんて思うのは君だけだ。俺に理想の何かを重ねないのは君だけだ。本当の俺が見えているのは君だけなんだ。

本当にこの人だったんだって、心が震えた。

安っぽい発想だけど……『運命』を感じた。
出会うべくして出会った人。
この人以外はありえない。

俺って見る目あるなあ。
そんな運命の人に一目惚れするなんて。

……君にとって俺は運命の男だった?
そうだといいんだけど……。
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