四月の足音は慌ただしい。

駅の近くにある十七階建てのオフィスビルでは、窓から差し込む午前十時の爽やかな日差しを誰ひとりゆっくり味わうことなく、多くの社員が忙しなく動いている。

理由は業績改革にともなう大きな人事異動があったから。

わたし、水門和紗(みなとかずさ)が勤めているのは、インテリアのコーディネートや販売、レンタルを行っているアーニーデコール株式会社。

住宅の建築を行っているアーニーホーム、商業施設やビルの建築を行っているアーニー建築、不動産の売買や仲介業を行っているアーニー不動産などと同じアーニーグループのひとつで、社員数は約三百人。

グループのほかの三社に比べると少なめだ。

アーニーグループは、もともと携わっていた建築業界では最大手だけど、三十年前から開始した不動産業とインテリア業では業界二位に留まっている。

今回はその業績改革ということで、会社の枠を越えた大規模な人事異動が行われていた。

グループ四社がこの十七階建てのオフィスビルにすべて入っているので、今日は朝からエレベーターが稼働しっぱなし。

人の足音も途切れることがない。

わたしが所属する、インテリア事業部コーディネート課も例に漏れなくバタバタしている。

挨拶回りに走ったり、デスクやキャビネットを移動させたり。

異動する人を見送ったり、やってきた人を歓迎したり……そして、まだ来ない新しい人のウワサをしたり。

でも、慌ただしいくらいのほうがいい。そのほうが、辛いことも忘れられる。

ちょっとでも気分を明るくしようとミントグリーンのアンサンブルに、白のフレアスカートを着てきたけれど、気分はまったく明るくならない。

ため息をつきながら、デスクに肘をついた手で額を押さえると、眉の上でザクザクと切った前髪に触れた。

どうせだったら、わたしもどこか遠くへ異動したかった……。

再びため息をついてうなだれると、胸元まで重たく伸びたダークブラウンの髪が頬にかかった。それを耳にかけ、左隣の空いたデスクを横目で見る。


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