【流れ修正しつつ更新】流れる華は雪のごとく
銀の秘密
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「皆さんお揃いで」


間延びした声は間違いなく水無月のものだ。


「水無月っ!」


結がハッとして立ち上がる。

大木の枝に闇に金色の光が一対。


「君たち、姫様を置いてのんびりしてて大丈夫なわけ?」


「余計なお世話だっつーの!」


余裕たっぷりに笑う水無月に苛立ちがこみ上げる。
図星だった。

今この状況で風花姫を放り出すのは危険だ。


「ふぅん、この子本当に生意気」


闇の中からフッと宵菊が現れた。

それに続いて秋雨と睡蓮も火が点るように姿を現す。


「いずれ負けるというのに無様な」


水無月の反対の枝から星月夜も口を添える。


「無様?俺たちは勝とうが負けようが関係ない。風花姫と花霞を守れたらな」


疾風は星月夜の赤髪を睨みながら低く唸るように言った。

星月夜のそれとは対照的な碧が風に揺れる。


「…秋雨さん」


静が秋雨をじっと見つめて呼びかけた。

秋雨はそれに答えるように見返す。

秋雨の着物がはためく。


「何だ」


「どうして花霞を狙うんですか。貴方には地位へのプライドも恐怖による支配も似合わない。貴方はそんなこと望まないはずです」


静の特技は言葉に含まれる感情を読み解くことだ。

それは知恩の能力の一つであるのだが。

秋雨は表情すら変えないが、動揺したのか着物の端を握りしめた。


「知恩殿、貴方に何の関係があるというのだ」


「関係はありません。でも、秋雨さんの“言葉”は悲しそうです」


秋雨の瞳が揺れた。


「…ダメだよ秋雨くん、そんなやつらに惑わされちゃ」


水無月が笑顔のまま秋雨に視線を向けた。

しかしその目は少しも笑っておらず、氷のように冷たい
光を放っている。


「こいつらは有明様に刃向かいし者達だぞ、秋雨」


星月夜も無表情で秋雨をたしなめた。

「ふん、秋雨まで言いくるめるたぁお前らなかなかやる
じゃねーかぁ?」


睡蓮がにたりと笑う。

闇夜に目立つ笑顔は不気味だ。


「言いくるめちゃいねぇよ、そいつが勝手に図星突かれただけだろ」


理津も同じように笑いながら睡蓮を睨む。

不穏な空気の中、相手は水無月と睡蓮だけが笑っていた。

いつも含み笑いを浮かべている宵菊も文月に冷たい殺気を浴びせかけているだけだ。


「花霞と露李ちゃんどこかなぁ?この辺小賢しい結界みたいなの張ってあるからよく分からないんだよね」


当たり前の結界の効果をさも面倒そうに唇を尖らせながら
水無月が辺りを見回す。

理津の幻術をこれでもかというほど張り巡らし、文月の自然を操る力で出現させた蔓でカモフラージュしてあるのだから当然だ。

それに加えて静が隠れの術をかけ、かつ結も敵を寄せ付けないための『逆境の風』を吹かせている。


「教えるわけねーだろ」


結が水無月に火花を飛ばす勢いで睨んだ。


ここで渡すわけにはいかない。


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