午前0時の恋人契約
6.フミダセ



『どうせなんの役にも立たないんだから』

『嫌われたくないならそのために努力しなさい』



自分の価値を決めつけて、嫌われることを恐れ、逃げてばかりいた自分。

だけど、その言葉が勇気という魔法をかけてくれた。



『いざという時は、俺がいてやる』



それはこの心にしっかりと刻まれた、とけることのない魔法。






朝6時半。自宅の洗面所で、鏡に映る自分の顔は涙に浮腫み少しブサイクだ。けど、心はどこか清々しい。

その顔を、両手で挟むように、軽くぱんっ!と叩いた。



「よしっ」





彼氏をレンタルして5日目の朝。

今日は自宅を出る一歩目を、いつもより大きく踏み出してみた。

眩しい太陽の下、カツ、と道を歩く足の力強さは、精一杯の気合いの表れ。



昨夜はあの後、貴人さんと屋上でコーヒーを飲みながら話をした。

貴人さんの入社当時のこと、上司からされた理不尽なことと、仕事でその仕返しをしたこと。今まで知らなかったような話に、いつしか涙は乾いていて、思い切り笑えた。



0時を迎える前に会社を出て、電車だと遅くなるからとタクシーで自宅まで送ってくれた彼。

きっちりと0時のタイムリミットを守るところが、貴人さんらしいと思ったけれど、それにどこか寂しさも感じた自分。



……って、あれ。あのタクシー代もあとで請求くるのかな。いくらかかるんだろう、恐ろしい……!

一瞬現実的なことも頭によぎってしまうものの、オフィス街を歩きながら見上げれば、高いビルとビルの間には真っ青な空が見える。



「……いい天気」



この街には今日も、沢山の人が行き交う。

そんな中でそれぞれに戦っている彼や他の人と同じように、私も戦うんだ。

非力でも、逃げ出しそうでも、私なりに。



また一歩踏み出せば、心にまとわりつく鎖が、ほどけていく気がした。





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