君にアイスを買ってあげるよ
洗剤の名前を聞かれました

森田さんが難しい顔をしている。眉間にしわが寄っているので、商談が難しいのかもしれない。

機嫌の居所の悪い人はそっとしておくにかぎる。そそくさと側を通り抜け、席につくと、森田さんから声がかかる。


「ひどいぞ橋田。俺が落ち込んでいるのに、スルーするなんて」

「そっと見守っていただけです。森田さん『負けないで』」


「橋田は真矢みきじゃない。励ましてくれるんなら、理由を聞かないか」

机に片肘をついた森田さんが、椅子ごと体を向ける。悔しいけど格好良く見えるのは言わない。容姿が良くて業績もいいのに、僕に対しては意地悪だからだ。

「はい聞きます。どうしました」


「あっさり言うなよ。橋田、食器を洗う洗剤、あれ何て言う」

「台所洗剤…とか」

自信がなくて、上目遣いになる。対して森田さんときたら、顔の前でブンブン右手を振る。

「違う、こう何か、商品名とかで言わないか」

「えーと…キュキュット?」

ばん、と森田さんが机を叩く。


「このエセ平成人め~ギリ昭和なくせに」

「別に平成生まれなんて言ってません。なに聞いときながら文句付けてるんですか」



森田さんはぐっとうなだれる。机の上の手はぐぐっと握られてかすかに震えている。

「平成生まれは、食器洗剤のこと、ジョイって言うんだよ」

「どこ情報ですか。それ」

「総務の川嶋さん。川嶋さんとこの子は、そう言うんだとさ」


ふと意地悪がしたくなる。
「森田さん、なんて言ったんですか」



「あーーーチャーミーグリーン」



それじゃ森田さんが落ち込んでいたのは感覚が古かったからなんだ。

なんだかおかしくて、僕は大声で笑った。

「橋田め覚えてろよ」

森田さんは手当たり次第、まわりに声をかけはじめた。


「食器洗剤のこと何て言う?」



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