思いは記念日にのせて

第五話


「かんぱーい!」

 たくさんのジョッキが一気にぶつかり合い、ビールの泡がこぼれだすんじゃないかと思って一瞬焦ってしまう。
 だけど周りはお構いなしで一気にそのビールを呷って合わせたかのように一斉に「ぷはーっ」と声を上げる。
 今日は新入社員歓迎会という名目で、席の近い四グループとそのOJTリーダー(指導者)を含めた飲み会。一応最初は班メンバーで近くに座り、きっと盛り上がってきたら各自移動するんだと思う。
 居酒屋の十畳くらいのお座敷を借り切っている。人数は二十人を超えているので結構密着してしまう。
 班メンバーの美花さんと早めに来たので壁際をキープすることができたんだけど、なぜかわたしと美花さんの間に霜田さんが座ってるんだよね。
 最初わたしの右隣が美花さんだったんだけど、女子でつるむなと引き離された。
 その結果、わたしの右隣が霜田さん。美花さんは席を移動させられてわたし達の向かいの席に男子ふたりに挟まれる形になってる。
 
「なんか見合いみたいで楽しいな」

 霜田さんが軽く身を乗り出して向かいの席の三人に笑いかける。
 するとみんなも「そうっすね」と合わせるようにしてビールを飲み続けた。
 こういう時は楽にいこうぜと霜田さんに言われて、みんな緊張の糸がほぐれたように飲みのペースが上がっていった。
 美花さんも結構飲める方みたいで、最初はビールを飲んでいたけど次からは焼酎のロックを注文しはじめた。
 男性社員の高部慎吾くんは真面目そうな感じの好青年で銀縁眼鏡がよく似合っている細身のタイプ。
 もうひとりの男性社員は茅野義人くんでやや長めのブラウンの髪をワックスで遊ばせてる色素薄い系のまあまあイケメンだと思う。遊んでますよって感じがにじみ出てるけど。
 高部くんは海外事業部志望らしく、やたら霜田さんに質問しまくっている。
 茅野くんは最初から美花さんに積極的に話しかけていた。
 壁際に座ったわたしは正直話すこともなく、間を持たせるためにちびちびとウーロンハイを飲み、出されたお刺身や煮物をぱくぱく食べていた。これがまたおいしい。
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