思いは記念日にのせて

第六話


 電車の中では思いの外、霜田さんと会話が弾んだ。
 金曜の夜だけどうまいこと空いてる電車に乗れてひそひそ声でずっと話してた。
 同じ駅の同じ東口。比較的明るい方の出口で駅ビルの入り口があったり通りには飲み屋やカラオケなどがたくさんある。
 ただ、東口をでてバスターミナルをすぎると大通りがあってその信号を渡った後うちは左、霜田さんのマンションは右だそうだ。だから同じ駅でも会うことがなかったんだな。残念。

「じゃあ、ここで」
「何言ってるの。家まで送るよ」

 信号を渡ったところで別れようとしたのに霜田さんはさも当たり前のようにうちのほうに歩いてくれた。

「この先に夢幻亭っていうオムライスの店あるの知ってる?」
「知ってますよ。めちゃ大好きです」
「本当? 今度一緒に行かない?」

 うわ、めっちゃさらっと誘われた。
 びっくりして歩みを止めそうになってしまい、慌てて息を呑む。

「あ、ごめん。いきなりすぎた?」
「え、あの」
「あそこ高校生カップルとか多くてさ、ひとりだと行きづらいんだよね。味気ないし」

 ……確かに。
 わたしが行く時も必ず高校生カップルが二、三組いるような気がする。それでもどうしても食べたい時はめげずにひとりで行くけど。でも、これはせっかくのチャンスではないか。
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