保健室の眠り姫は体育教師の受難を夢に見る
悪い王様の受難



保健室には秘密がある。


保健室のベッドで眠ると、自分が知らないうちに記憶が一個抜け落ちる。



そんな噂が流れ出したのは、いつだっただろう。









「糸島さん」

「え……?」



次の日なるべく市野先生ともみちるちゃんとも顔を合わさないようにして過ごしていると、私の席に見たことのある顔の男子がやってきた。同じ学年の、爽やかな人。市野先生に車で送ってもらったときに先生に声をかけてきた人。

あの時車の中からでは確認できなかった名札に「泉谷」と書かれているのを見て、あぁ、と思って口に出す。



「なぁに、いずたにくん」

「残念。読み方は〝いずみや〟ね」

「……ごめん」

「いいよ、糸島さんって見るからに人の名前覚えるの苦手そうだし」



あっけらかんと失礼なことを言う人だなと思いながら、困って見ていると、泉谷くんは私の一つ前の席に座って声をひそめた。
別のクラスからやってきてまっすぐ私のところにきた泉谷くんは注目の的だ。



「……糸島さんに訊きたいことがあったんだよね」

「なに?」



声をひそめているから自然と距離が近くなる。
その距離にドキドキしてしまうとか、別にそういうことはないんだけれどそわそわ落ち着かない。



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