甘い恋の賞味期限
オレンジジュースで理不尽を飲み干す
*****

 間宮家にお邪魔してから1週間が経ち、千世は1度も史朗と顔を合わせていない。息子の千紘とはメールやら電話もしているが、史朗とは絶対に会わないよう気をつけている。
 それは、会社でも変わらない。
 そもそも、千世は大勢いる社員のひとりで、向こうは専務様。会う機会など、はじめから無いに等しい。逃げ回ったりしなくても、合う心配はないのだ。

「その後の進展はどう?」

 仕事終わり、千世は定時で上がれるのだが、別の部署の心晴は残業するらしい。着替えのためロッカールームへ向かっていたら、廊下で呼び止められた。

「進展って?」

「プリンの男よ」

「あぁ……」

 そういえば、誤解を解いていなかったんだった。

「プリンを作ってあげたのは確かに男だけど、5歳児よ」

「…………はぁ?」

 ものすごい顔で睨まれた。会社じゃなかったら、胸倉でも掴まれそうな形相だ。

「わ、私は嘘は言ってない。ホントのことを言わなかっただけだから」

「余計にタチが悪いでしょっ。……まぁ、いいや。なら、週末飲みに行こうよ」

 切り替えが早い。
 そんなに怒っていないようで、千世は安堵の息を吐く。

「知り合いと飲むんだけど、いい子紹介してくれって言われてんの。あんたに相手がいるのなら、誘うのやめとこうと思ってたんだけど」

「いいよ、別に」

「あんた、最後に彼氏がいたのはいつよ?」

 会社の廊下で話すようなことじゃないと思うのだが、心晴は解放してくれる気配はなさそう。

「あ〜聞こえな〜い」

 耳を塞ぎ、わざとらしく聞こえないふりをする。今は恋愛に興味がないんだ。普通に飲みに行くのなら了承するが、男性を紹介されるのなら遠慮する。

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