心の中を開く鍵
「俺がサイテーな奴だったって事は、お前がいなくなってから相談した先輩に散々突っ込まれて知っている」

ああ……そう。

「ついでに、暴れたら殴られた」

その言葉にキョトンとして、ムスッとふてくされた感じの翔梧を眺める。

「……暴れたの?」

「暴れた。と言うか荒れた。俺は女々しい奴なんだ」

あの。そんな堂々と不機嫌そうな顔をして偉そうに言われても、どうにも女々しいに繋がらない。

「しょうがないから仕事に打ち込んでいたら、課長になっていた」

「しょうがないから仕事しないで! 真面目に仕事しなさいよ!」

それはどうかと思うし、理由が情けないと言うか。

「お前は相変わらず真面目だな」

くっと笑われて、眉を吊り上げる。

「ふざけるんじゃないわよ!」

と、言う声と、

「ビール二つ、お待たせしましたぁ」

と言う、気の抜けた声がかぶった。

瞬きして横を見ると、ビールを持っていた店員さんがビクつく。

「お、お待たせいたしまして、申し訳ありません……ふ、ふざけた訳じゃないんです」

「あ、いえ。あなたに言ったワケじゃないの。ビール置いて置いて。そして注文させて?」

翔梧が肩を震わせながら俯いているのを横目で眺め、注文を終えると店員さんが離れるのを確認してからメニューを閉じる。

「笑わないでよ」

「悪い……。でも、真由が表面上を取り繕うのが上手いのがよく解った。職場では初日を抜かせば、完璧な秘書だもんな」

そっちこそ、無表情な課長じゃないか。

無言で眺めると、苦笑が返ってきた。

「とりあえず、乾杯するか?」

「何に?」

「なんとなく?」

なんとなく……ね。

カチンとジョッキを合わせて、ビールをイッキ飲みした。
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