ついでにバランスも失って、思いきり翔梧の胸に抱きつく。

そしてポーンと言う音と一緒にエレベーターがまた開いて、見覚えのある二人の姿が見えた。

「おお。最近の若者は積極的だのー」

相談役顧問の楽しそうな声と、愛敬いっぱいの表情。

その隣に立つ葛西主任は、片手で顔を隠して嘆くように溜め息をついている。

「ご、誤解ですー!」

顔を真っ赤にして叫んだら、頭上から翔梧の溜め息が聞こえた。

「僕が段ボールを取り上げてしまったせいで、彼女がバランスを崩してしまいまして」

顧問を振り向いた時には、完璧な笑顔を見せて、そっと私を押しやる。

「なんじゃつまらん。男なら、押し倒すくらいの気合いで行かんか」

「……は?」

さすがの翔梧も目を丸くして、人の良さそうな笑顔を見せている顧問を見下ろした。

「……あの?」

「まぁ、よいよい。とりあえず会議じゃ会議」

ケラケラと笑って去っていく顧問を見送って、翔梧と顔を見合わせていたら、残っていた主任が振り返った。

「山根さん……」

「は、はい!」

慌てて姿勢を正したら、それはそれは残念そうな顔で首を振る主任。

「あなたは気をつけていたようですが、残念ながら、僕でも気がつきました」

「え……?」

私は全く解りませんが。主任は何に気がつかれましたか?

「高崎さん」

主任は翔梧を見て、何故か両手を合わせる。

「ご愁傷様です」

「あの。どういうことでしょうか」

翔梧もワケが解らないみたいで、表情は冷静だけれど、目が泳いでそれを裏切っていた。

「高野商材との商談には、僕も何度か同行いたしましたから、以前からあ
なたの事は存じておりましたが……」

主任は静かに呟いて、前置きをするとじっと翔梧を見つめる。

「無表情なあなたが、山根さんに抱きつかれて嬉しそうにされる姿は“とても解りやすかった”です。うちの相談役顧問にバレましたので、多少業務に支障をきたすことでしょう」