鉢植右から3番目


「・・・お疲れさん」

 後ろから声が降ってきて、驚いて振り向いた。

「・・・ああ、ビックリした」

 両手をズボンのポケットに突っ込んで、上の道路の端からヤツが見下ろしていた。

 風が髪を揺らして目にかかり、それで鬱陶しそうな顔をしているのだろう。真っ直ぐに前の空が赤くなっていくのを見ている。

「・・・終わったの?戻ったほうがいい?」

 私が聞くと、視線を下げてゆっくりと隣まで降りてきた。

「ほとんど帰ったけど、挨拶する必要はないからゆっくりしていいって親が言ってた」

 成る程、で、あんたは彼女を迎えにいきなさいって指令が出たのね。

 少し後ろの斜面で同じように座り、やつがポケットから缶コーヒーを出した。

「飲む?」

「あ、これはどうも」

 有難く頂く。一日がかりの仕事を終えて、ちょうどコーヒーが欲しいなあと思っていたところだった。

 早速開けて、喉を鳴らして飲んだ。

「ああ、美味しい。風も気持ちいいし、いいところだねー、ここ」

 にっこりと笑って振り返ると、ヤツは無表情のまま呟いた。

「それは良かった」


< 52 / 143 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop