過保護な彼にひとり占めされています。

ワガママ





出会いは、春。



『見て見て、あの人かっこいい』



そんな周囲のひそひそとした声の中、入社式で見かけた彼。

その整った顔立ちと漂う雰囲気から、沢山の人の中でも一際目立って存在感があった。



それから3年半近くが経って、その目がこちらに向くなんて思いもしなかった。

その目が、表情が、言葉が、この心を揺さぶる。





とある日の夕方。

仕事の終わる定時まであと2時間とせまった16時頃、私はパソコンに向かいイベントのポスター制作の作業をしていた。



先日のちびっこ運動会での一件以来、まわってくる仕事はPOPやパンフレット、ポスターの制作の依頼ばかり。

私、イベントプランナーよりデザイナーやイラストレーターを目指すべきだったのかな……。

一瞬落ち込みそうになるものの、そんな気持ちを振り払うように頭をぶんぶんと振る。



って、落ち込むな自分!こういう仕事だって仕事のうち!

ここからどういう形でイベントプランナーとして活かされるかなんて分からないんだから!頑張る!

自らを奮い立たせるように気合いを入れ、一度止まった手にペンを握り直す。



「お、一花やる気満々だねー」



するとそこに声をかけてきたのは、フロアに入ってきた名波さん。

黒いハイヒールをコツコツと鳴らしながら近付く彼女は、両手に持っていたカップのうちひとつを私へ手渡した。


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