恋する歌舞伎
楓の夫・春彦は偶然、頼家公の夜討ちの密談を木陰から聞いていた。

急いで頼家の家臣にこのことを伝えに行くが、そのとき敵の軍勢が打ちかかってくる!

「御在所に夜討ちがかけられた」という情報を聞き、家で夫と姉の安否を心配する楓。

やがて春彦は帰ってきたが、頼家や桂たちの安否はわからないとのこと。

しかし悪い予感は的中し、桂が手負いで帰ってくる。

しかも不思議なことに、桂は夜叉王が打った面をつけた姿であった。

桂は頼家にそっくりなこの面をつけることで身替りとなり、敵の目を欺こうとしたのだ。

虫の息となった姉を泣きながら介抱する楓。

しかし父の夜叉王は、動揺をみせず、娘の死に際に
「姉も定めて本望であろう。父もまた本望じゃ」
と意外なことを言う。

そして
「自分が打った面に死相が現れていたのは、頼家の運命を予言していたのだ!」
と、神がかった己の才能に陶酔する。

そればかりか
「面の下に現れた若い娘の断末魔を、後の手本として残したい」
と、スケッチを始める・・・。

異常なまでの芸術への執着心が、父性も正常な判断をも消し去ってしまったのだろうか。

魂を抜き取られたかのように、瀕死の娘の顔を描き続ける夜叉王なのであった。

< 125 / 135 >

この作品をシェア

pagetop