オフィスにラブは落ちてねぇ!!

大嫌いな男

いつも通りの昼下がり。

ある保険会社のオフィスでは、ほとんどの職員が出払って閑散としている。


「ただいま帰りましたー。」

出先から戻った営業職員の初老の女性が、内勤の若い女性に書類を手渡した。

「菅谷さん、お願いします。」

「お帰りなさい、お疲れ様です。」

内勤の若い女性は、ニコニコ笑って書類を受け取った。


菅谷 愛美(スガヤ マナミ)、26歳。

大学を卒業してからこの会社に入社して今年で５年目、この支部に配属になって３ヶ月ほどになる。

愛美は書類に目を通し、不備がない事を確かめた。

（しかし…きったねぇ字だな…。これは猿にでも書かせたのか？）

表面上は上品に笑みを浮かべながらも、心の中では口汚く毒を吐く。

「朝野さん、これで大丈夫です。入力が済んだら、またこちらに回して下さいね。」

愛美から書類を受け取った営業職員の朝野さんは、愛美の顔を見て申し訳なさそうな顔をした。

「申し訳ないんだけど…菅谷さん、入力の仕方を教えてもらえない？たまにしかしない手続きだと、どうしても覚えられなくて…。」

「この間また仕様が変わったところですからね、仕方ないですよ。わかりました、一緒にやってみましょう。」

愛美は優しく微笑みながら席を立って、朝野さんの席に向かった。

（いい加減覚えろっての。）



個人パソコンへの入力の仕方を優しく教え終わると、愛美はまた書類を持って内勤の席に着いた。

（物覚え悪過ぎだろ…。）

年寄りなのだから仕方ないかと思いながら、内勤用パソコンに入力するため、愛美はキーボードを叩く。

あっという間に入力作業を終えた愛美は、入力済み書類の引き出しに書類を収めると、席を立ってコーヒーを入れた。


勤め先が保険会社と言う事もあり、職員の大多数を占めるオバサマたちからは無難な方が嫌われない。

気の強い内勤職員の多い中、愛美は明るい笑顔を振り撒き、何事もそつなくこなしているので“仕事の出来る優しい内勤さん”と、社内での評判が良い。


ただ、心の中ではいつも毒づいている。