クールな王子に捧げる不器用な恋【番外編追加】
7、ぎこちない同居の始まり ー 悠人side
ひよこを連れてうちに帰る。

車の中ではずっと無言だったが、家に帰ってからもひよこはずっと憔悴しきったような様子で、ソファーの上に体育座りしている。

俺も下手な慰めな言葉を口にする気にはなれなくて、ひよこをそっとしておいた。

食欲もないのか、俺が用意したサンドイッチを摘まんだだけ。

DVDの映画を観ているが、ストーリーが頭に入っているかはわからない。

まあ、自分の住んでいるアパートが水害に遭ったのだ。ショックを受けるのも無理はない。

それにしても……ひよこの声に聞き覚えがあるとずっと思っていたが、今彼女が黒縁メガネをしているのを見て思い出した。

ひよこは……高校の卒業式の日に告白してきた女子学生の一人だ。

話した事もない女が何人も卒業式に告って来て、最後の方はもううんざりして酷い言葉を浴びせたように思う。

あの日、最後に告白してきたのがひよこだった。

緊張してどもるひよこの声に余計腹立たしさを覚えた。
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