プワゾン
プワゾン
 携帯をバッグに仕舞って、アトマイザーを出して耳の後ろにプワゾンをスプレィする。

「実佳……おいで……」

 愛しい男の声がする。

 シルクのローブをまとった私はベッドの端に腰掛けて
「一人娘に私と同じ名前を付けるなんて酷い男ね。あなたって人は……」

 ウエストにたくましい腕が絡んでシーツの波に引きずり込まれていく……。

「寝言で呼んでも疑われないだろう……」
 私の髪をなでながら男は耳元で囁く。

「出張だなんて、横浜は充分日帰り出来るわよ。最低な男……」
 もっと酷い言葉で罵倒してやりたいのに……。

 男の動きに私の声は……言葉は……。

 意味を持たない甘いものに変えられていく……。

「実佳は……最高の女だよ」
 熱い思いを体の隅々まで教え込まれる……。

「達也……愛してる」
 もうそれだけしか言えない……。


 私は最低な女だ……。たぶん……。

 ううん。間違いなく……。



          完







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