オフィス・ラブ #∞【SS集】
4人がけのテーブルに校正用紙を広げ、隣りあって立ったまま、ラフと見比べながら、こちらの要望を話す。

彼は小さくうなずきながら、一度もこちらを否定することなく、けれど無理なことは無理と、はっきり言った。



「商品を回転させるのは、僕はお勧めしません。かなり決め打ちで撮影してますので、素材のクオリティが下がります」

「他に、要望を実現できる手法があれば、回転は必須ではないんですが」

「そうですね、こちらのオブジェクトと、商品の位置を入れ替えて、サイズもぐっと差をつけるのはいかがですか」

「なるほど」

「その方向でメリハリをつけて、御社のご要望に沿いそうなデザインを何案かお出しします」



綺麗な指にペンをはさみ、それで口元を叩きながら、思案するように言う。

新人だというからてっきり年下かと思ったら、なんと年齢は2つ上だった。

どうりで、落ち着いている。


彼が、手帳のカレンダーの日付を、指で追って言う。



「お戻しはタイトになりますが、ご容赦くださいね」

「もちろん。よろしくお願いします」



一度もNOと言わない、二重丸の代理店マンだ。

このそつのない対応で、営業でないのが不思議なくらい。



「いよいよですね、プロモイベント」



修正を書きこんだ校正用紙を、持っていたファイルケースにおさめながら、三ツ谷さんがにこっと笑った。

そう、いよいよだ。

< 164 / 206 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop