イケメン御曹司に独占されてます
月の輝く夜に
「福田、こないだ言ってた資料、もうできてる?」


隣に座っている池永さんが、エクセルの画面から視線を動かさないまま言った。長い指先がキーボード上を忙しなく動き回る音が、途切れることなく続いている。


「はい。もう共有ファイルに入れてあります。確認して貰って大丈夫なら、印刷しますね」


「いや、それはこっちでやるからいい。それよりこっちの伝票、先にさばいて。今届いたんだけど、これ今日中に処理しなきゃ請求に間に合わない。あそこの女の子、いつも伝票ためるから……。できる?」


そこでようやく私に視線が向けられる。眼鏡越しだというのに思わず見入ってしまいそうな端正な顔立ちは、いくら一緒にいてもそうそう見慣れることはできない。……というより、ここ最近は以前にも増して過剰に意識してしまう。

私はわざと視線を逸らしながら、差し出された分厚い伝票を受け取った。



「大丈夫です。今日中に処理しますね」


「部長には連絡入れておくから、明日の朝イチで決済もらえるように用意しといて。俺、これから外出して戻ってこられないと思うから」


専務にパーティに連れて行ってもらい、池永さんとホテルのスイートルームに泊まった日から早くも一週間。
あの日は本当に色んなことがあって、自分でも何が起きたのかよく分からないでいたけれど、一週間経って、今、ようやく状況を把握しつつあるところだ。





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