季節外れのサクラの樹に、嘘偽りの花が咲く
少しだけでいいから私を安心させて欲しかったのに、順平は私の気持ちになんか気付いてくれなかった。

順平の夢が叶う頃には、もう私なんか必要ないというだろう。

もし夢をあきらめる日が来たら、私は順平になんと言えばいいのだろう。

順平には言わなかったけれど、私にだって夢はあった。

でもそれは順平とはきっと叶わない夢だと思ったから、手遅れになる前に、私は順平の前から消えたんだ。

舞台を控え劇団の活動に夢中になっていた順平は、私がいなくなった事になんて、しばらく気付かなかっただろうな。

気付いたところで、順平が髪を振り乱し必死になって探してくれたりはしなかったのだろう。


今となっては昔の話。


順平の後ろ姿はもう、見失いそうなほど小さくなっている。

私は明日の朝食を買おうと、通り掛かったコンビニに立ち寄った。

牛乳とパンでも買って帰ろう。


安いバターロールと牛乳を買ってコンビニを出ると、店の前に順平がいた。

さっきあんなに遠くにいたはずなのに、どうして戻って来たんだろう?

「買い物?」

「…ああ。」

コンビニに入った順平は、手にした買い物かごにパンやペットボトル入りのコーヒーなどを適当に放り込む。


なんだ。

明日の朝食を買い忘れて戻って来たんだな。

やっぱり順平は順平だ。








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