甘いだけの恋なら自分でどうにかしている

一人じゃ怖い夜



「なんでお前は俺を呼び出すんだ。泥棒を捕まえるなら、110番だろ」

「す、すみません。てっとり早く呼べる男の人が課長しか思い浮かばなくて。最寄駅が隣だって言ってたし、さっき別れたばかりだし、私の家を知ってるし」

課長は呆れたような溜め息を吐くと「で、何が盗られたかわかるか?」と確認した。

部屋の中の物の位置が変わっていて、気持ち悪いし怖くて課長を呼び出してしまった。
酔っていたとはいえ、思い切ったことをしたと家に来た課長の顔を見てすでに後悔している。
さっき謝罪し反省したばかりだというのに、何も学んでいない。

「……わかりません」
「ちゃんと確認しろ。というか、この前とは比べようもない程、綺麗で荒らされたように見えないけど。泥棒が片づけたとでも言いたいのかお前は」
「違います。あまりの汚さに嫌気がさして、大掃除したんです! でも引き出しが開いてたり明らかに何かいじられた感じはあって……」
「極端な奴だな。んで、どうする? 警察呼ぶか? まあ盗られたものわかんねーとなると、泥棒なのかも怪しいけど。大体俺ら、酔っぱらってるし、信用されるかも危ういな。こんなあやふやな被害状況じゃ」
「……あ、そっか」
「そっかじゃねーよ。巻き込まれた俺の身を考えてみろよ。もう一度確認しろ」
「警察には、明日、もう一回、部屋の中を確認したら通報してみます」
「じゃあ、俺は帰るからな」

「課長」と、思わず引き止めてしまった。
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