ビタージャムメモリ
01.巧先生

To:mashita.takumi@xx.co.jp

Subject:Re:経済誌取材の日程について


眞下(ました)様


たびたび失礼いたします、広報の香野(こうの)です。

ご調整ありがとうございます。


資料のデータをお送りいただければ、私のほうで出力、及びプロジェクタの設定等しておきます。


当日は直接、広報部フロアへお越しください。

本社12階の、エレベーターホール正面になります。


差支えなければ、何かあった時のために、ご連絡先を伺ってもよろしいでしょうか。





「私、の、携帯の番号は…と」



11桁の番号を書いて、送信ボタンをクリックした。

思わず深いため息が漏れる。



「開発部門へのメール?」



声に同情をにじませるのは、向かいの席の先輩だ。



「世界が違いすぎて気を使うよね、お疲れ」

「いえ、ただこの眞下さんという方、厳しいと聞くので…お会いするのも初めてですし」

「『氷の眞下』かあ、今や時の人だもんね、避けては通れないねえ」



やめてください、と悲鳴をあげている間にも、PC画面が返信を知らせてきた。

忙しいはずなのに、なんてレスポンスの速い人だろう。



『私の番号です』



そっけない一文と、090で始まる番号、それだけ。

どうか、メールが端的なだけで、お会いしたら優しい人でありますように。


祈りながら、その番号を自分の携帯に登録しようとして、指が止まった。


私の携帯が言うには。

この番号は、すでにアドレス帳に登録されているらしい。

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