何度も振り返り、彼女のアパートの周りに怪しい奴がいないか確かめた後、来た道を歩き出会った日を思いだしていた。

彼女を初めて見た時に、一目惚れしていたなんて言ったら麗奈は驚くだろうな…

彼女の初々しい笑顔に、一瞬で心を持っていかれた。

ただ、毎日彼女に

『おはようございます』

『行ってらっしゃいませ』

そう言われるだけで満足していたんだ。

大和一族のしがらみから…好きな女とは結婚なんて無理だとわかっていたから恋愛なんてしないと決めていた。

だから、もっぱらその場だけの関係しかしてこなかった俺が、心から欲しいと望んだ女。

それが花崎 麗奈だった。

大和建設のトップに立つ為に結婚相手なんて自分で決めれない。
祖父が選んだ会社に有利な縁組を強いられる運命で、俺は祖父の駒でしかない。

彼女を遠くから見ているだけでいい…
望んだところで彼女とは一緒になれない運命なんだ。

そう思い諦めていた。


2日前

とうとう、祖父から政略結婚の相手の話が出た。

わかっていたが、心に彼女がいるせいか素直に『はい』とは言えなかった。

考えさせて欲しいと会長室から出て、真っ先に向かったのは玄関ロビーにいる彼女の元へ。

お昼休憩に入ろうとしていたところをある男に腕を掴まれ、誰も使わない階段へと向かう。

やはりあれだけ可愛い彼女には、男がいたのかと男の背を見つめ苦々しく思っていた。

屋上へと続く避難用階段。

ドア一枚で遮る空間に男と2人きりだ。

そんなところでいったい何をするのかと想像しただけで腸が煮え返る。

ふと、彼女が誰かに助けを求めるように振り返った表情が気になり後を追っていた。

俺らしくないと自嘲しながらも、ドアを少し開け聞き耳をたてていた。

痴話喧嘩のような会話に、やはり恋人同士なのかと落ち込んだ俺。

ドアを閉めようとした時…

『仕方がない…よくもそんなこと……血が繋がってなくても兄さんは兄さんよ。
男として見れないし…私には、ちゃんと彼がいるの…』


血が繋がっていない兄妹だって⁈

彼女は花崎

男は常盤って苗字だ。

俺が、戸惑っている間に男の荒々しい声とどこかを打つ音。

そして…彼女の悲痛な声に

『いや…』

ドアを押し、俺は踊り場に足を踏み込んでいた。

電球の明かりの下で、彼女の頬が赤くなっているのを見つけた。