翌日

いつものように出社してくる社員達の中から、頭1つ抜け出た男がこちらに向かって歩いてくる。

「おはようございます」

爽やかな笑顔で微笑む男。

「おはよう…麗奈。後で専務のところに一緒に行ってこよう」



どうしてですかと首を横に傾けた。

「昨日、言い忘れたが俺たちが付き合ってる事が会長の耳に入ったんだ。専務も知っているはずだから、挨拶しておこうと思ってね」

偽の恋人同士なのにそこまでする必要があるのだろうか?

でも、有無も言わせないというように

「後で迎えに来るよ」

そう言い捨てて忙しい部長は、エレベーターの中に消えていった。

横から肘を突っつく優香が口パクで

『どう言うこと?』

と聞いてくるけど…苦笑いして出社してくる社員に挨拶をする私。

それが気に入らない優香。

制服の上から他の人から見えない太腿を摘んでくる。

ッ…痛いな。

ギロッと優香を睨み返す。

今度は、素知らぬ顔で優香が出勤してくる社員に笑顔で挨拶しだす。

出勤時間が落ち着いたら、問い詰められるのね…

社員の出勤時間が落ち着いた頃、義兄がいつもより遅く出社してきた。

目も合わせずに挨拶だけする私。

受付の前で立ち止まった男が見ているのは隣にいる優香だった。

驚いている優香に

「今日の夜時間あるかな?」

えっえっ…えーとパニックになっている優香。

それもそうだろう…

義兄の想い人は私だと思っているのだから…訳がわからないというように私を見てくる。

私だって、義兄の考えがわからない。

「あの…それは…」

おどおどしく確認しようとする優香に

「君と食事がしたいんだけど…ダメかな?」

どういうことかさっぱりわからない。

1日で、優香に乗り換えたのだろうか?

義兄も部長にかなわなくても、イケメンの部類に入り、将来有望株の1人らしい。

そんな男に誘われたら、普通は断るなんてしないだろう。

優香も、少し悩んだようだったがすぐに返事をする。

「……いいですよ」

「じゃあ、夕方ここのロビーで待ちあわせで…」

頬を染め大きく頷く優香。

義兄は、チラッとこちらを見ていたようだが、私は視線を合わせなかった。

義兄がいなくなった途端、オロオロしだす優香。

「どういうことかな?常盤さん、麗奈が好きだったんじゃないの⁈あっ、そうか…麗奈と池上部長のことを聞き出そうと誘ったのかも…」