史上最悪!?な彼と溺甘オフィス
プロローグ

「瑠花、もっと顔見せて」


「ちゃんと俺を見て」


「・・・可愛いよ」


蕩けるような甘い微笑みも、


背中がゾクゾクする艶のある声も、


宝物に触れるかのような優しい指先も、


全てが作りモノ。



真実なのは、



その冷たい唇だけ。







「佐倉は今日、青山に直行だったよな?
俺は先出るから、部屋適当に使って」

丁寧にアイロンのかかったライトブルーのシャツにネイビーのジャケットを羽織りながら、彼は言った。

視線は手元のスケジュール帳、私の方は見向きもしない。


あのシャツにアイロンをかけたのは、誰なんだろう とぼんやり思う。


「はい。 セカンドアーツ社に寄ってから出社するので12時前くらいになると思います」

「了解。
あ、腹へってたら冷蔵庫のものお好きにどうぞ。 俺は付き合えないけど」


そんなこと、言われなくてもわかってますよ という言葉を飲み込んだ。

もう数え切れないくらいの朝を一緒に迎えているけど、私はこの男と朝食どころか珈琲一杯すら一緒に飲んだことはない。


「じゃあな」

「はーい、また後で」

一度も振り返らない彼の背中を見送って、柔らかいベッドに身体を沈める。
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