アラビアンナイトの王子様 〜冷酷上司の千夜一夜物語〜
 夕日に温まった窓にすがり、那智は言った。

「いつか言いましたよね。
 子供というのは、想いの塊なんじゃないかって。

 だったら、キスだけでも、子供はできますよって。

 ほら想いが溜まったんです」
と那智がお腹に手をやって見せると、違うだろ……という顔を遥人はした。

「私思ったんですよ。
 王が改心して子供と暮らし始めても、それでもシェヘラザードは毎晩話し続けたんじゃないかと」

 愛する王と家族のために。

「ぬいぐるみを買ってやってくださいね。
 この子のために」

「なに女だと決めてかかってんだ」
と複雑そうな顔をする。

 お前にも娘ができればわかると桜田に言われた言葉が、彼に今、重くのしかかっているようだった。

 生まれる前から、嫁に行くときの心配してどうすんだ、と那智は笑った。

「でも、このところ、ずっと予定いっぱいですね。
 夜も会食続きで。

 会食まで、今、時間空いてるから、ちょっとお休みになられてはいかがてすか?」

 秘書らしく、そんなことを言ってみると、そうだな、と遥人は言う。

 既に不眠症ではないので、夜も眠れはするのだが、今度は、忙しさから眠る時間が取れないでいた。

 ソファで横になる遥人にブランケットをかけてやる。

 遥人の顔の側にそっと腰掛けた那智を見上げ、遥人は微笑んで言った。


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