可愛いあの子は美人に弱い
追われる男
 来た。
 放課後の騒がしさの中、背後から忍び寄る気配を察知した和真(かずま)はその存在に気取られぬように警戒を強める。

 いつでも回避出来る様に。
 逃げ出せる様に。

 だが相手は人ならざる者。

 和真の警戒心を嘲笑うように、瞬時に目の前に移動した。
 息を飲むほどの美しい顔と、少し青みがかった灰色の双眸が和真を捉える。


 その美しさ故か、はたまた単純に驚いただけなのか。
 和真は一瞬呼吸を忘れたように息が止まった。

 でも警戒していた彼はすぐに気を取り直し、美の化身のようなその人物と距離を取る。

 警戒心を解かぬまま相対する。


 相手は余裕の笑みを口元に湛え、優美な仕草で長く艶やかな黒髪を払った。

 その形の良い唇が開く。


「今日は逃がさないわよ、和真ちゃん」

 語尾にハートマークでも付きそうなもの言いに、和真は感情を揺さぶられその勢いのまま怒鳴った。


「ちゃん付けするんじゃねぇ! 崎島(さきじま)!」

「名字じゃなくて名前で呼んでってば。蓮香(れんか)、れーんーか。言ってみて?」

「だーれが言うか! ってか俺の話は聞いてんのか!?」

「もー、そんなに怒ってたら可愛い顔が台無しになっちゃうわよ? 笑って笑ってー」

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