③愛しのマイ・フェア・レディ~一夜限りの恋人~
 暗い窓の外へと、視線を流していた彼が、はっと顔を燈子に戻した。

「すまない、愚痴になってしまったね。

…燈子」

 彼は突然、卓上の燈子の手の上に自分の手を重ねた。

 とと、とう…こ?

 自分の名を呼ぶ深い声に、ドキリと胸が高鳴った。

「男が志を抱いて勝負をかける時は、周囲はいつも敵ばかり、味方でさえ、信頼が置けないこともある。
 そんな時は。
 無条件で自分を受け入れてくれる場所(ヒト)が何より欲しくて…愛しい」

「ヒトシさん…」
 
 彼の手が、触れた部分が熱を帯びてくる。

「今は、君だ」

 きゅっ。
 大きな掌が指を握ると、燈子は咄嗟に身を強張らせた。

「わ、私は、そんなんじゃないですよ?
本当にお間抜けで、何も出来ないから……」

 いつも叱られてばかりいる。

「…………」

 彼は黙って首を横に振ると、そっと手を燈子から離した。 


「そろそろ、出ようか」
 
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